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【 男はつらいよ お帰り寅さん 】

客席は六割ほど埋まっていた。最近映画館への足がまた伸び出していると聞いていたがこんなに観客が増えていることに驚いた。
私は山田洋次監督作品、男はつらいよシリーズ50作目「お帰り寅さん」のスクリーンを前にワクワクしながら座っていた。
40才代から80才代の往年のファンの方々が、とても楽しそうに上映開始を皆同様に待っている。
私は中学生の頃から、お正月の深夜テレビで父と一緒に寅さん観て育った。その父の影響からか高校生になるとアルバイト代で映画館へ足を運んだ。
寅さんが惚れた女性にフラれる場面、そのシーンに出会うたび、格好悪い寅さん、というより粋な男の美学を毎回学んでいたような気がする。
男と女が「好き」とか「嫌い」とか、はっきり口にすることは恥である、と寅さんは49作のシリーズの中で一貫して主張し続けていた。
タコ社長「ねえ、ねえ、寅さん、嫌いなんていわれたらいやだろうねぇ」
寅さん「バカ、日本の男はそんなこといわないよ」
ひろし「じゃあ、なんていうんです?」
寅さん「なにもいわない。目でいうよ」
ひろし「へえ~」
寅さん「お前のことを愛してる。すると、向こうも目で答えるなあ。悪いけど、私、あなたのこと嫌い。するとこっちも目で答えるなあ。いつまでもお幸せに。そのまま、くるっと背中を向けて、黙って去るな……それが日本の男のやり方よ」
※第24作「寅次郎春の夢」1979年12月公開より
これが男はつらいよシリーズの一貫した背骨であり寅さんの美学だった。
それが今回の50作目にして満男(みつお)と初恋の相手泉が40才代にして再会することから物語は始まり、日本で暮らす満男とヨーロッパで暮らす泉とが三日間を過ごす過程で、満男の伯父さん「寅さん」を思い出す回想シーンで物語がつくられる。そして泉が成田空港から帰国の途につく別れのシーンで二人はキスを交わす。
これは寅さんの美学にはない。
寅さんは許さない。
このシーンで、あぁ、本当にもう寅さんはいないんだなぁ、と私は実感すると同時に「もう寅さんには会えないんだな」と寂しくなった。
観てよかった。この映画を。
名優渥美清さんが逝去されて24年。
心の中の「寅さん」と一緒にまだどこかにその存在を感じていた自分。しかし、この50作目「お帰り寅さん」は私にとって、「さよなら寅さん」をハッキリ自覚できた。
悲しいものです。
目指す背中がひとつひとつ没していく様は。
だから、最近はいつも「また会える」なんて思わないようにしています。「これが最後かも」と。一期一会の重さをしっかり噛みしめるように……。
山田洋次監督はじめ、映画制作に関わったすべてのスタッフの皆さまにファンの一人としてお礼申し上げます。

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