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心が技術を越えない限り、決して技術は生かされない。

分相応

ぶん‐そうおう【分相応】身分や能力にふさわしいこと、また釣り合っていること。広辞苑第四版より

 

日本語にはこの分相応に似た言葉で「身の丈にあう」がある。身の丈にあった人が一番いいとか、身の丈にあった生活などの使い方がなされる。また、これらの真逆の位置にある言葉では「身のほど知らず」がある。意は、自分の立場や実力の程度を知らないということだが、立場や実力の高い人が自分を低く見積もっているということではなく、立場や実力のほとんどない人が立場や実力の高い人のごとくにふるまう様子を揶揄した言い方。

先日、ひょんなことからリッツカールトン大阪に泊まる経験をした。ホテルの中のホテルといわれるクラブフロアでの宿泊体験。このクラブフロアというのは、通常のフロントではなく上階にある専用フロントでのチェックインとなり、そこにはフルーツからクッキー、ドリンクから軽食と何でもそろっている。夢のようなおもてなしなのだ……。

しかし、これがとんでもないことになった。貧乏性で田舎者の私にとって、なんとも居心地の悪い。リッツといえばクレドカードで有名だ。全社員が共通の志で働くため、あらゆる価値観を共有しているカード。そこの初めにはこう書かれている。

「私たちは紳士淑女をおもてなしする紳士淑女なのだ」と。

私はかなり期待して宿泊した。しかし、あれっ? の連続となった。食事のとき「珈琲いただけますか」という私に「もちろんです」と返事がある。最初は「へーぇ、リッツは “もちろんです” って応えるんだ……」なんて聴いていた。居酒屋とは違うなって。ハイ、喜んでじゃないんだって。しかし、その後も、その後も……。

「りんごむいていただけますか」
「もちろんです」

「グレープフルーツジュースをいただけますか」
「もちろんです」

マニュアルかっ !! と突っ込みたくなった。我々営業マンは常に真のコミュニケーションとは何かを追及している。しかし、サービスマンたちにそれはないのか、と考えさせられてしまった。

リッツもあそこまで大袈裟な宣伝を繰り返さなければ、普通に泊まり、なんと素敵な接客だろうという一般的な感想は持てたはずだが、結局やり過ぎたのかな……なんて考えてしまう。なんでも「感動、感動」という世間の濁流の中に入ることなく、普通に自分たちの仕事をしていれば良かったのにと。

ただ、わたしが身の丈に合わない場所に宿泊してしまっただけなのかもしれない……。分相応、身の丈……。なんと大切な言葉だろうか。

でも、もしかすると……、この感想は、結局、分不相応な者の感想にすぎないのではないだろうか。真のお金持ちは、そんなことどうでもいいのだろう。私は板についた貧乏性。つまり払った宿泊代は回収したい、というしみったれた根性だから、色眼鏡で見てしまったにすぎないのだ。

 

※これはあくまで私個人の感想であって、ホテル側の責任は一切ございません。文責/中村信仁

 

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